「f文字列」 vs 「Jinja2」 は、どちらも「テンプレートに値を埋め込む」仕組みですが、
目的・スコープ・安全性が全く異なります。
以下では、実務（Pythonスクリプト〜Webアプリ）でどう使い分けるかを、
初心者にも分かる表で整理 → 実例コード比較 → 現場の判断基準 の順に解説します。
ざっくり結論（最初に要約）
| 項目 | f文字列 | Jinja2 |
|---|---|---|
| 主な用途 | スクリプト内で簡単に文字列生成 | Webやメールなどのテンプレートエンジン |
| 埋め込み方法 | Pythonの式を {} に直接書く | テンプレート内で {{ }} や {% %} を使う |
| 実行タイミング | Pythonが評価時に即時展開 | テンプレートファイルをコンパイル・レンダリング |
| ロジック | Python式のみ（if/for は事前に書く） | if, for, フィルタなどテンプレート制御可能 |
| 安全性 | Pythonコードを直接評価（危険） | 自動エスケープあり（特にHTML安全） |
| 外部ファイル | 通常はPythonソース内に直接書く | .html, .txt, .jinja など外部テンプレートを使う |
| 適した規模 | 小規模・スクリプト・自動メール | 中〜大規模・Webテンプレート・マルチ言語対応 |
| ロケール対応 | f文字列＋Babelなどで自前実装 | Babel連携が容易（Flask/Jinja組み込み） |
1. f文字列の特徴（コード内テンプレート）
Python 3.6以降の機能で、簡単に値を埋め込める。
name = "田中"
total = 123456
print(f"{name}さん、合計金額は￥{total:,}です。")
出力：
田中さん、合計金額は￥123,456です。
長所
- 軽い、依存なし、Python式がそのまま使える。
- 変数の値や数式を即時に埋め込むだけなら最速・最短。
- スクリプトやCLIツール、ログ出力に最適。
短所
- HTMLやメールなど「テンプレート構造のある文書」では管理が大変。
改行・エスケープ・多言語対応が絡むとすぐに煩雑になる。 - Python式を直接埋め込むため、安全性が低い（外部入力を埋め込むと危険）。
- テンプレートを外部ファイルとして分離しにくい（再利用性が低い）。
2. Jinja2 の特徴（テンプレートエンジン）
Flaskなどで使われるテンプレートエンジン。PythonコードからHTMLやメール本文を動的生成できる。
例：テンプレート（order_mail.txt）
{{ user }}様
ご注文ありがとうございます。
{% for name, qty, price in items %}
- {{ name }} x{{ qty }} : {{ "{:,}".format(qty * price) }}円
{% endfor %}
合計（税込）: {{ "{:,}".format(total_with_tax) }}円
Python側
from jinja2 import Template
user = "田中"
items = [("ノートPC", 1, 120000), ("マウス", 2, 1200)]
total = sum(q * p for _, q, p in items)
total_with_tax = int(total * 1.1)
with open("order_mail.txt", encoding="utf-8") as f:
template = Template(f.read())
msg = template.render(
user=user, items=items, total_with_tax=total_with_tax
)
print(msg)
出力：
田中様
ご注文ありがとうございます。
- ノートPC x1 : 120,000円
- マウス x2 : 2,400円
合計（税込）: 134,640円
長所
- テンプレートを外部ファイルに分離でき、HTML/メール/通知文などを管理しやすい。
- 条件分岐・ループ・フィルタ（
|format,|upperなど）などの制御が可能。 - FlaskやBabelなどと組み合わせてローカライズ・多言語化が簡単。
- HTML自動エスケープで安全。
短所
- 導入がやや重い（
pip install jinja2が必要）。 - 小さなスクリプトで使うと冗長に感じる。
- Pythonの変数・式は直接使えず、テンプレート内の構文に合わせる必要あり。
3. 実務での使い分け指針
| 目的 | 適した方法 | 理由 |
|---|---|---|
| 簡単なログ・デバッグ出力 | f文字列 | 速くてシンプル。式埋め込みに最適。 |
| CLIツール・ワンショットスクリプト | f文字列 | 外部ファイルを用意するほどでもない。 |
| システムメールや帳票テンプレート | Jinja2 | 改行・ループ・条件式・整形をテンプレートに分離できる。 |
| HTML生成（Flask/Djangoなど） | Jinja2 | 自動エスケープ、国際化対応。 |
| 多言語対応（通貨・日付・言語） | Jinja2 + Babel | Flask標準で連携でき、`{{ price |
| セキュリティ重視（外部入力あり） | Jinja2 | f文字列は危険（Python式評価）。 |
実務Tips：組み合わせも可能
f文字列と Jinja2 は排他的ではなく、「役割分担」させることが多いです。
例：Jinja2 のテンプレートを f文字列で補助
from jinja2 import Template
TEMPLATE = f"""{{
% for u in users %}
{{{{ u['name'] }}}} さんの残高は ￥{{{{ u['balance']:, }}}} です。
{% endfor %}
"""
users = [{"name": "田中", "balance": 120000}, {"name": "鈴木", "balance": 9800}]
msg = Template(TEMPLATE).render(users=users)
print(msg)
f文字列で「定数部分」を組み立て、Jinja2 でループ・変数展開を行う。
開発現場での実際の判断基準
| 開発規模 | 推奨 |
|---|---|
| スクリプト1本／自動通知など小規模 | f文字列 or .format() |
| Webアプリ／メール配信など中規模〜 | Jinja2（Flask/Djangoなど標準採用） |
| 国際化／多言語表示が必要 | Jinja2 + Babel |
| 計算中心で文字列はおまけ | f文字列で十分 |
| 他者が編集するテンプレート（非エンジニア含む） | Jinja2（テンプレート言語が読みやすい） |
まとめ
- f文字列 は「Python式埋め込み」：小規模・即時評価向け。
- Jinja2 は「テンプレート言語」：構造化・安全・多言語向け。
- 現場では、「f文字列でプロトタイプ → Jinja2に移行」が定番ルートです。
