ねらい：ブック依存を卒業し、どこでも使える「Excelアドイン（XLAM）」へ
アドイン化は「よく使うVBAを、どのブックでも同じ操作で使えるようにする」ための最短ルートです。機能を共通ライブラリ化し、ボタンやショートカットから呼べるようにすると、配布・更新・運用が劇的に楽になります。ここでは、最小のXLAMテンプレからUDF（関数）、リボン／メニュー、設定・ログ、署名・信頼場所まで、初心者が貼って動かせる形で解説します。
重要ポイントの深掘り
アドインは「開いた瞬間に機能を提供する」常駐モジュールです。だからこそ、開始・終了の枠を備え、公共API（Public Sub/Function）を公開し、ブックに依存しない配列I/Oと前提検証に統一します。更新・互換・セキュリティ（署名／信頼場所）を先に設計しておくと、現場で長く安定運用できます。
XLAMの骨組み：最小テンプレと公開API
アドインの基本構造（標準モジュールとThisWorkbook）
アドイン（XLAM）には「公開する入口（Public Sub）」と「共通枠やユーティリティ」が必要です。ThisWorkbookで起動時のセットアップ、標準モジュールで機能提供、Class/Moduleで補助を構成します。
' ThisWorkbook（アドイン起動時の初期化）
Option Explicit
Private Sub Workbook_Open()
' 起動ログや環境設定（必要なら）
Debug.Print "XLAM loaded: " & ThisWorkbook.Name
End Sub
' ModApp（共通枠）
Option Explicit
Public Sub AppEnter(Optional ByVal status As String = "")
Application.ScreenUpdating = False
Application.EnableEvents = False
Application.DisplayAlerts = False
Application.Calculation = xlCalculationManual
If Len(status) > 0 Then Application.StatusBar = status
End Sub
Public Sub AppLeave()
Application.StatusBar = False
Application.Calculation = xlCalculationAutomatic
Application.DisplayAlerts = True
Application.EnableEvents = True
Application.ScreenUpdating = True
End Sub
' ModPublicAPI（公開する入口：どのブックでも呼べる）
Option Explicit
Public Sub Run_NormalizeSelection()
On Error GoTo EH
AppEnter "Normalize"
Dim rng As Range
Set rng = Selection
If rng Is Nothing Then Err.Raise 900, , "選択範囲がありません"
Dim arr As Variant: arr = rng.Value
Dim r As Long, c As Long
For r = 1 To UBound(arr, 1)
For c = 1 To UBound(arr, 2)
arr(r, c) = Trim$(CStr(arr(r, c)))
Next
Next
rng.Value = arr
AppLeave
Exit Sub
EH:
AppLeave
MsgBox "失敗: " & Err.Description, vbExclamation
End Sub
重要ポイントの深掘り
公開APIは「どのブックでも動く」ことが命です。ActiveWorkbookや特定シート名に依存させず、Selectionや引数で対象を受け取る形にします。開始・終了枠で必ず復帰できる安心を持たせ、エラーはFail Fastで明快に止めます。
UDF（ユーザー定義関数）をアドインから提供する
シート関数として使えるPublic Functionのテンプレ
UDFはどのブックでも関数名で呼べます。副作用を持たず（セルを書かない）、引数だけで結果を返す純粋関数にします。
' ModUdf（アドイン提供の関数）
Option Explicit
Public Function CLEANID(ByVal s As String) As String
' 先頭ゼロを残しつつ非数字を除去（例：ID整形）
Dim i As Long, ch As String, buf As String
For i = 1 To Len(s)
ch = Mid$(s, i, 1)
If ch Like "[0-9]" Then buf = buf & ch
Next
CLEANID = buf
End Function
Public Function PASSFLAG(ByVal score As Double, ByVal threshold As Double) As String
PASSFLAG = IIf(score >= threshold, "○", "×")
End Function
重要ポイントの深掘り
UDFは「速さ」と「副作用ゼロ」が基本です。ApplicationオブジェクトへのアクセスやファイルI/Oは避け、計算だけに専念します。引数検証（IsNumeric/IsDate）は親切ですが、エラーを返す場合は CVErr(xlErrValue) などのExcelエラー値も選択肢です。
リボン・メニューから呼べるようにする（初心者はメニュー型から）
旧コマンドバーでボタンを追加する（最短・作業量少）
Ribbon XMLが難しければ、CommandBarsで「アドイン」メニューにボタンを追加できます。起動時に登録し、終了時に削除する形にします。
' ModMenu（起動時にボタン追加）
Option Explicit
Private mButton As CommandBarButton
Public Sub RegisterMenu()
On Error Resume Next
Dim bar As CommandBar
Set bar = Application.CommandBars("Cell")
If mButton Is Nothing Then
Set mButton = bar.Controls.Add(Type:=msoControlButton, Temporary:=True)
mButton.Caption = "Normalize（XLAM）"
mButton.OnAction = "Run_NormalizeSelection"
End If
On Error GoTo 0
End Sub
Public Sub UnregisterMenu()
On Error Resume Next
If Not mButton Is Nothing Then mButton.Delete
Set mButton = Nothing
On Error GoTo 0
End Sub
' ThisWorkbook（アドインの起動・終了フック）
Option Explicit
Private Sub Workbook_Open()
RegisterMenu
End Sub
Private Sub Workbook_BeforeClose(Cancel As Boolean)
UnregisterMenu
End Sub
重要ポイントの深掘り
CommandBarsは「右クリックメニュー」などに簡単にボタンを足せます。RibbonXより導入が手軽で、配布直後から誰でも使えます。後からRibbonXに移行する場合は、同じ公開API（OnAction先）を使い回せるようにしておけば移行コストが下がります。
RibbonXで本格UIにする（必要に応じて）
customUI（Ribbon XML）を追加し、コールバックをVBAに結びつける
XMLは「Office RibbonX Editor」などでブックに追加します。コールバック名はPublic Subで用意し、IDを結びます。
<!-- customUI14.xml の例（Book内に追加） -->
<customUI xmlns="http://schemas.microsoft.com/office/2009/07/customui">
<ribbon>
<tabs>
<tab id="tabAddin" label="XLAMツール">
<group id="grpNormalize" label="整形">
<button id="btnNormalize" label="Normalize" onAction="Run_NormalizeSelection"/>
</group>
</tab>
</tabs>
</ribbon>
</customUI>
重要ポイントの深掘り
RibbonXは「見た目を綺麗に、機能をグループ化」できます。コールバックはPublic Sub名で指定し、アドインに存在する必要があります。XMLは別編集ツールで追加するのが一般的です。まずはメニュー型で運用し、必要性が出たらRibbonXへ移行するのが負担が少ない道筋です。
設定・ログ・バージョン管理をアドイン内に持つ
設定はConfigシートに外出し、鍵で読む
' ModConfig（XLAM内のConfigシートを読む）
Option Explicit
Private Function ConfigSheet() As Worksheet
Set ConfigSheet = ThisWorkbook.Worksheets("Config")
End Function
Public Function GetConfigString(ByVal key As String) As String
Dim ws As Worksheet: Set ws = ConfigSheet()
Dim last As Long: last = ws.Cells(ws.Rows.Count, "A").End(xlUp).Row
Dim r As Long
For r = 2 To last
If StrComp(CStr(ws.Cells(r, "A").Value), key, vbTextCompare) = 0 Then
GetConfigString = Trim$(CStr(ws.Cells(r, "B").Value))
Exit Function
End If
Next
Err.Raise 900, , "Configキーが見つかりません: " & key
End Function
ログはLogシートへ時刻・アクション・詳細で記録
' ModLog（アドイン共通ログ）
Option Explicit
Public Sub LogInfo(ByVal action As String, ByVal detail As String)
Dim ws As Worksheet
On Error Resume Next
Set ws = ThisWorkbook.Worksheets("Log")
If ws Is Nothing Then Set ws = ThisWorkbook.Worksheets.Add: ws.Name = "Log"
On Error GoTo 0
Dim r As Long: r = ws.Cells(ws.Rows.Count, 1).End(xlUp).Row + 1
ws.Cells(r, 1).Value = Format(Now, "yyyy-mm-dd HH:NN:SS")
ws.Cells(r, 2).Value = action
ws.Cells(r, 3).Value = detail
End Sub
重要ポイントの深掘り
アドイン内にConfigとLogを持てば、どのブックから呼んでも「同じ設定・同じ記録」が使えます。現場での調整はConfigに集約し、コードの再配布を減らします。バージョン番号をConfigに持たせ、起動時にログへ出すと配布確認が容易です。
配布・導入・更新の手順と安全策
導入手順（XLAMの作成と登録）
- XLAMに保存: 元の開発ブックを「名前を付けて保存」で「Excel アドイン（.xlam）」形式にする。
- アドイン登録: Excelの「オプション > アドイン > 設定」でXLAMにチェックを入れる。
- 信頼済み場所: 共有配布なら「信頼できる場所」にXLAMを置くと、マクロ警告が減る。
更新のコツ（後方互換と署名）
- 公開APIの互換: Public Sub/Functionのシグネチャ（引数）を変えずに内部実装を更新する。
- デジタル署名: 可能なら自己署名／企業署名でVBAプロジェクトに署名し、配布先で信頼設定。
- バージョン管理: ConfigにVersionを持ち、Workbook_Openでログに吐くと「どれが入っているか」が一目で分かる。
重要ポイントの深掘り
配布の事故は「信頼場所・署名・互換性」を押さえると激減します。後方互換を守るほど、ユーザー側の更新作業が軽くなります。アドインの起動はExcel全体に影響するため、例外時でも復帰する設計（開始・終了枠）を標準化します。
例題シナリオ：よく使う整形・UDF・CSV出力をアドイン化
操作の流れと確認ポイント
- Normalize: 任意のブックで範囲を選択し、右クリックメニューの「Normalize（XLAM）」を押す。トリム整形が反映される。
- UDF: 任意のブックのセルで
=CLEANID(A2)や=PASSFLAG(D2,70)を使用。関数が期待通り動く。 - ログ: アドインのLogシートに操作履歴が残る。起動時にVersionが記録される。
- 設定: Configでしきい値を変え、PASSFLAGの既定値を差し替えるなど、コードに触れず運用変更できる。
重要ポイントの深掘り
「どのブックでも同じ操作で使えること」を確認してください。選択依存機能はSelection、関数はセル計算、I/Oは配列で統一すると、アドインの“持ち運び性”が担保されます。ログ・設定が内蔵されていると、配布後の運用が静かに回ります。
トラブル対策と落とし穴回避（深掘り）
競合や二重登録
アドイン複数が同じメニューに同名ボタンを足すと競合します。IDやキャプションをユニークにし、起動時に「既に登録済みか」を確認して二重追加を避けます。
ActiveWorkbook依存
アドイン側でActiveWorkbook前提のコードを書くと、別ブック操作時に誤動作します。対象は引数で受け取る（Selection、Range、Path）か、明示的にApplication.ActiveWindowから取り出します。
UDFの副作用
UDF内でApplicationやセルを書き換えると再計算ループやエラーの原因になります。UDFは純粋な計算関数に徹します。I/OはPublic Subから呼ぶ設計に分離します。
まとめ：XLAMは「共通枠＋公開API＋UDF＋UI登録」で完成する
アドイン化の鍵は、ブック非依存で動く公共の入口（Public Sub/Function）、開始・終了枠、配列I/O、設定・ログ、そして簡単に押せるUI（メニュー／リボン）。この型に沿えば、初心者でも「貼って動く」、運用側でも「更新が楽」、現場でも「壊れない」アドインになります。