プロトタイプ（プロトタイプチェーン）と継承を「初心者向け」に噛み砕いて、たっぷり例付きで解説する。ポイントを押さえて、実際に試せるコードも入れるから手を動かしてみて。
プロトタイプと継承 — 概要（超かんたん）
- オブジェクトは「プロトタイプ（親オブジェクト）」を持てる。
あるオブジェクトにプロパティやメソッドが無いときは、その親（プロトタイプ）を順に探していく仕組みが プロトタイプチェーン。 - この仕組みによって 「同じ機能を何度も書かずに共有できる」＝継承 が実現される。
例えると：部屋（オブジェクト）に椅子（プロパティ）が無ければ、隣の倉庫（プロトタイプ）を見に行って借りる感じ。
プロトタイプチェーン探索のアニメーション（親から順に探す様子）
なぜ大事？（メリット）
- メモリを節約できる（共通メソッドをひとつだけ持たせる）
- オブジェクトの振る舞い（メソッド）をまとめて管理できる（変更は親だけ）
実際にどう動くか：簡単なコードで理解する
const parent = {
greet() {
console.log("hello from parent");
}
};
const child = Object.create(parent);
child.name = "child";
child.greet(); // "hello from parent"
動き：
child.greetを呼ぶchildにgreetが無い → 次にchildのプロトタイプ（ここではparent）を探すparentにgreetがある → それを使う
Object.create(parent) は「parent をプロトタイプにした新しいオブジェクト」を作る便利な方法。
prototype と [[Prototype]] の違い（混乱しやすいポイント）
- 関数オブジェクト（コンストラクタ関数）には
.prototypeプロパティがある。
例：function Person(){}→Person.prototypeはnew Person()が参照する「プロトタイプの設計図」。 - 作られたオブジェクト自体は内部スロット
[[Prototype]]（多くの環境で__proto__として見える）を持つ。これは実行時に次に探索する「親オブジェクト」を指す。
図（イメージ）：
Person (function)
└─ .prototype ---> { sayHi: function() {...} }
alice (object) --[[Prototype]]--> Person.prototype
コード例（コンストラクタ関数と new）：
function Person(name) {
this.name = name;
}
Person.prototype.sayName = function() {
console.log(this.name);
};
const alice = new Person("Alice");
alice.sayName(); // "Alice"
new Person("Alice")は内部でPerson.prototypeをaliceのプロトタイプにセットする。
instanceof とプロトタイプ
obj instanceof Constructor は、Constructor.prototype が obj のプロトタイプチェーンのどこかに存在するかをチェックする。
alice instanceof Person; // true
hasOwnProperty とプロトタイプ由来のプロパティの見分け方
obj.propでプロパティが見つかっても、それが自分自身（自身のプロパティ）か、プロトタイプから来たものかは別。- 自身のプロパティか確認するには：
alice.hasOwnProperty("name"); // true
alice.hasOwnProperty("sayName"); // false（sayName は prototype 側）
プロパティの探索（シャドウイング）
- 子オブジェクトに同じ名前のプロパティがあると、プロトタイプ側の同名プロパティは見えなく（上書きされて）なる。これをシャドウイング（shadowing）という。
Person.prototype.age = 0;
alice.age; // 0 (proto の値)
alice.age = 30; // 子に age を作る（シャドウ）
alice.age; // 30
// Person.prototype.age は依然 0 のまま
Object.create vs コンストラクタ関数（使い分け）
Object.create(proto)：プロトタイプを直接指定して新しいオブジェクトを作る（シンプル・明示的）。- コンストラクタ関数 +
new：オブジェクトに初期化処理（プロパティの設定）を組み込める。クラス構文の裏で使われる考え方。
どちらもプロトタイプ継承を使う手段だけど、最近は読みやすさのために ES6 の class 構文を使うことが多い（下で説明）。
ES6 の class 構文（見た目はクラスだがプロトタイプを使う）
class はプロトタイプ継承の「シンタックスシュガー（書きやすくしただけ）」で、内部的にはプロトタイプを使っている。
class Person {
constructor(name) {
this.name = name;
}
sayName() {
console.log(this.name);
}
}
const bob = new Person("Bob");
bob.sayName(); // "Bob"
Person.prototype.sayName に相当するメソッドは class のメソッドとして定義され、全インスタンスで共有される。
よくある誤解・注意点（初心者がつまずきやすい）
- プロパティを書き換えると全インスタンスに影響が出る？
- prototype にある オブジェクト を直接変更すると、参照しているすべてのインスタンスに影響する（共有参照の副作用）。
- 例：
Person.prototype.tags = []とすると全インスタンスで同じ配列を共有する → 予期せぬデータ混入に注意。
thisの値は呼び出し方で決まるobj.method()のときはthis === obj。でもconst f = obj.method; f();のように取り出すとthisがundefined（strict mode）やglobalに変わる。bind,call,applyでthisを明示的に固定できる。
for...inはプロトタイプ上のプロパティも列挙するfor...inは列挙可能なプロパティをプロトタイプチェーン含めて列挙するので、通常はhasOwnPropertyと組み合わせて使う。
- プロトタイプチェーンは実行時に辿られる（動的）
- つまり、後から
someProto.newMethod = ...と追加すれば、既に存在するインスタンスからも参照可能になる。
- つまり、後から
まとめ
- 継承 = オブジェクトが別のオブジェクトを「親」にしてプロパティ/メソッドを借りる仕組み。
- JavaScript の継承は プロトタイプチェーン による（クラス構文はそのラッパー）。
- 使うときは「どこにプロパティを置くか（自分側か prototype 側か）」で動作が大きく変わることを意識して。
- 練習（3問 — 手を動かそう）
const a = {x:1}; const b = Object.create(a); console.log(b.x);の出力は？（答え:1）- コンストラクタ関数で
greetメソッドを全インスタンスで共有する書き方を実装してみて。 Person.prototype.arr = []を定義して、p1.arr.push(1)したときp2.arrはどうなる？ なぜ？