概要（タプルのアンパックは「並んだ値を並んだ変数へ一度に割り当てる」）
タプルのアンパックは、複数の値を一度に複数の変数へ代入する文法です。インデックスを使わず「意味のある名前」に直で割り当てられるので、コードが短く、意図が明確になります。基本の同数アンパック、余りをまとめる“拡張アンパック（）”、不要要素の捨て方（_）、入れ子構造のアンパック、関数引数への展開（args, **kwargs）まで押さえると、日常の処理が驚くほど綺麗に書けます。
基本の使い方（ここが重要）
同数アンパック（値の数＝変数の数）
point = (10, 20)
x, y = point
print(x, y) # 10 20
左右の要素数が一致しないと ValueError になります。まずは「数を揃える」が鉄則です。
x, y = (10,) # ValueError: not enough values to unpack
a, b = (1, 2, 3) # ValueError: too many values to unpack
拡張アンパック（*で「残り」をひとまとめ）
「余りを全部まとめて受けたい」なら、変数の前に * を置きます。まとまった値はリストになります。
a, *rest = (1, 2, 3, 4)
print(a, rest) # 1 [2, 3, 4]
*a, b = (1, 2, 3, 4)
print(a, b) # [1, 2, 3] 4
first, *middle, last = (1, 2, 3, 4, 5)
print(first, middle, last) # 1 [2, 3, 4] 5
“*は1つだけ”がルールです（左右に複数置くことはできません）。
不要な値は「_」で捨てる（読みやすさ重視）
使わない値には、慣習的に _ を使うと意図が伝わります。
x, _ = (10, 20) # 2つ目は使わない
_, _, z = (1, 2, 3) # zだけ欲しい
first, *_, last = range(10) # 途中は捨てて両端だけ
入れ子と実務での定番パターン
入れ子のアンパック（形を合わせる）
タプルの中にタプルがあるなら、左辺も同じ形にします。
record = ("alice", (25, "Tokyo"))
name, (age, city) = record
値の入れ替え（swap）を1行で
一時変数なしで安全に入れ替えられます。
a, b = 1, 2
a, b = b, a
関数の複数戻り値を受け取る
戻り値をタプルで返す設計にして、自然に展開します。
def stats(xs):
return min(xs), max(xs), sum(xs)/len(xs)
m, M, avg = stats([1, 2, 3, 4])
ループでのアンパック（ペア・座標・辞書 items）
pairs = [("A", 10), ("B", 20)]
for label, value in pairs:
print(label, value)
points = [(1, 2), (3, 4)]
for x, y in points:
print(x + y)
d = {"id": 101, "name": "alice"}
for key, val in d.items():
print(key, val)
関数引数への展開（* と ** を正しく使う）
可変引数へ展開（*args）
「引数の列」をそのまま渡したいときに使います。数が一致していないと呼び出し側でエラーになる点は同じです。
def add(a, b, c):
return a + b + c
vals = (1, 2, 3)
print(add(*vals)) # 6
キーワード引数へ展開（**kwargs）
辞書を「キー名で」展開して渡します。関数側のパラメータ名と辞書キーが一致している必要があります。
def create_user(id, name, city="Tokyo"):
return {"id": id, "name": name, "city": city}
data = {"id": 101, "name": "alice"}
print(create_user(**data))
重要ポイントの深掘り（安全性・エラー・応用設計）
要素数の整合性が最重要（テストで守る）
アンパックは「形が合っている」ことが前提です。不定長データには拡張アンパックを使うか、事前に長さをチェックして安全に扱います。
def head_tail(xs):
if len(xs) < 2:
raise ValueError("少なくとも2要素が必要です")
first, *_, last = xs
return first, last
拡張アンパックは「1箇所だけ」。結果はリスト
拡張アンパックの結果はリスト（タプルではない）になります。型を揃えたいなら必要に応じて tuple(…) に変換します。
first, *middle, last = (1, 2, 3)
middle = tuple(middle) # 必要ならタプルへ
位置引数とキーワード引数の組み合わせ
展開は位置（）→キーワード（*）の順で書きます。順序を逆にすると構文エラーです。
def f(a, b, c, d=0):
...
args = (1, 2)
kwargs = {"c": 3, "d": 4}
f(*args, **kwargs) # OK
# f(**kwargs, *args) # SyntaxError
可読性を最優先（過度なアンパックは分割する）
ネストや * の位置が複雑になるほど読みづらくなります。途中変数に分けるだけで保守性が大きく向上します。
record = ("alice", (25, "Tokyo"), [1, 2, 3])
name, rest = record[0], record[1:]
age, city = rest[0]
nums = rest[1]
例題で身につける（定番から一歩先まで）
例題1：ファイル名と拡張子を分解
import os
fname = "report_2025-12-15.csv"
base, ext = os.path.splitext(fname)
print(base, ext) # report_2025-12-15 .csv
例題2：自然な並びでヘッダ付き行を展開
row = ("alice", 85, 25)
name, score, age = row
print(f"{name} scored {score} ({age}y)")
例題3：先頭・中間・末尾だけ取り出す
seq = [10, 20, 30, 40, 50]
first, *middle, last = seq
print(first, middle, last) # 10 [20, 30, 40] 50
例題4：zip＋アンパックで列へ戻す（unzip）
pairs = [("A", 1), ("B", 2), ("C", 3)]
labels, values = zip(*pairs)
print(labels, values) # ('A','B','C') (1,2,3)
例題5：divmod の複数戻り値
q, r = divmod(17, 5)
print(q, r) # 3 2
例題6：for で座標を展開しつつ処理
points = [(1, 2), (3, 4), (5, 6)]
for x, y in points:
print(x * y)
まとめ
タプルのアンパックは「並んだ値を、意味のある変数名へまとめて割り当てる」ための基本技です。要素数の整合を守り、足りない／多い場合は拡張アンパック（*）や事前チェックで安全に扱う。不必要な値は _ で捨て、入れ子は形を合わせてほどく。関数引数では * と ** を適切に使い分ける。過度に凝らず、読みやすさを最優先すると、日々の処理が短く、明快で、堅牢になります。