概要 — 完全商用レベルの「Excel UI デザイナー」設計方針
企業で使えるレベルの UI デザイナーは、ただコントロールを並べるだけでなく、再利用可能なコンポーネント、テーマ／スタイル管理、コード自動生成、バージョン管理、エクスポート（テンプレ）/ インポート、セキュリティ対策、テスト支援、ユーザー向けドキュメント生成 まで含めます。
以下は「設計方針」「主要機能一覧」「実装テンプレ（VBAコード＋使い方）」「運用上の注意点」をステップバイステップで示した完全テンプレです。すぐコピペで使えるコア実装（主要部のみ）を含みます。
主要機能（商用レベル要件）
- デザインキャンバス（ドラッグ＆ドロップで配置／移動／リサイズ）
- コントロールパレット（ラベル、テキストボックス、ボタン、ComboBox, ListBox, ProgressBar, Calendar など）
- プロパティエディタ（選択コントロールのプロパティをツリー／表形式で編集）
- レイアウト補助（グリッド、スナップ、整列、等間隔分布）
- テーマ管理（カラー・フォント・角丸・影などをテンプレ化）
- コード自動生成（Initialize / ControlEvents / 保存/復元コード）
- コンポーネントライブラリ（再利用可能な UserControl 風のクラス）
- プロジェクト管理（複数フォーム／バージョン管理／エクスポート）
- リボン連携（リボンにツールを追加）
- セキュリティと配布（署名、Trust Access、配布手順）
- テスト自動化ヘルパー（ダミーデータ注入、ロードテスト）
- ドキュメント／サンプルの自動生成
アーキテクチャ（モジュール分割）
- UserForm:
frmDesigner（メインのデザインUI） - UserForm:
frmProperty（プロパティエディタ） - UserForm:
frmPalette（コントロールパレット） - Module:
modBuilder（UI生成・コード注入ロジック） - Module:
modProject（プロジェクト管理／保存・読み込み） - Class:
clsControlModel（設計上のコントロール抽象モデル） - Class:
clsComponent（再利用コンポーネント） - Module:
modRibbon（リボン登録ヘルパ） - Module:
modUtil（汎用関数、APIラッパー）
必須設定（導入時に注意）
- VBA エディタの「ツール」→「参照設定」で Microsoft Forms 2.0 Object Library を有効にする（通常は参照済）。
- 「開発」→「マクロのセキュリティ」または Excel のセキュリティ設定で Trust access to the VBA project object model を有効にする（コードでVBProjectを操作するため必須）。
- 配布時は署名・デジタル証明の検討／使用者向け手順（上記を許可してもらう）を用意する。
操作フロー（ユーザー視点）
frmDesignerを起動。左にfrmPalette（パーツ）、中央がキャンバス、右がfrmProperty。- パレットからコントロールをドラッグしてキャンバスにドロップ（もしくはクリックで追加）。
- コントロールを選択：プロパティエディタで Caption/Name/サイズ/位置/タグ/データバインドなど編集。
- グリッドにスナップさせ、整列・配列ボタンで見た目を整える。
- 「Generate」ボタンで UserForm と、必要な初期化コード・イベントスタブを自動生成。
- 生成フォームをプロジェクトに追加して、編集・テスト・エクスポート（テンプレ）を行う。
実装テンプレ：最小限稼働するコア（コピーして使えるコード）
※ ここでは「コア機能」を短く示します。商用化する場合は例外処理・ログ・権限チェック・大規模なUI改善が必要です。
frmDesigner（メインフォーム） — 概要と主要イベント
' UserForm: frmDesigner
' - Frame: fraCanvas (キャンバス)
' - CommandButton: cmdGenerate
' - CommandButton: cmdNewControl
' - Label: lblStatus
Private Sub UserForm_Initialize()
' 初期化：グリッドサイズ等
Me.lblStatus.Caption = "Ready"
Call frmPalette.Show ' パレットを表示（モードはモードレス）
Call frmProperty.Show
End Sub
Private Sub cmdNewControl_Click()
' サンプル：クリックでラベルをキャンバスに追加（実際はドラッグで座標を取得）
Dim ctl As MSForms.Label
Set ctl = Me.fraCanvas.Controls.Add("Forms.Label.1", "lbl_" & Format(Now, "hhmmss"), True)
With ctl
.Caption = "NewLabel"
.Left = 10
.Top = 10
.Width = 80
.Height = 18
End With
Call SelectControlOnCanvas(ctl.Name)
End Sub
Public Sub SelectControlOnCanvas(ctrlName As String)
' 選択コントロールをプロパティパネルに通知
frmProperty.LoadProperties Me.fraCanvas.Controls(ctrlName)
Me.lblStatus.Caption = "Selected: " & ctrlName
End Sub
Private Sub cmdGenerate_Click()
' 生成トリガー：選択コントロール情報を集めてコード生成
Call modBuilder.BuildFormFromCanvas(Me, "GeneratedForm1")
MsgBox "フォームを生成しました: GeneratedForm1"
End Sub
frmPalette（コントロールパレット） — 単純な追加ボタン
' UserForm: frmPalette
' CommandButtons: btnLabel, btnTextBox, btnButton
Private Sub btnLabel_Click()
' パレットから追加（実際はドラッグ座標が必要）
frmDesigner.cmdNewControl_Click
End Sub
frmProperty（プロパティ編集） — 単純なプロパティ表示/編集（モデル）
' UserForm: frmProperty
' Controls: txtName, txtCaption, txtLeft, txtTop, cmdApply
Public currentControl As MSForms.Control
Public Sub LoadProperties(c As MSForms.Control)
Set currentControl = c
Me.txtName.Value = c.Name
Me.txtCaption.Value = IIf(TypeName(c) = "Label", c.Caption, "")
Me.txtLeft.Value = c.Left
Me.txtTop.Value = c.Top
End Sub
Private Sub cmdApply_Click()
If currentControl Is Nothing Then Exit Sub
currentControl.Name = Me.txtName.Value
If TypeName(currentControl) = "Label" Then currentControl.Caption = Me.txtCaption.Value
currentControl.Left = Val(Me.txtLeft.Value)
currentControl.Top = Val(Me.txtTop.Value)
End Sub
modBuilder（コード注入：キャンバスから UserForm 生成のコア）
' Module: modBuilder
Option Explicit
Public Sub BuildFormFromCanvas(designer As Object, newFormName As String)
' 1) 新しい UserForm を作成
Dim vbComp As VBIDE.VBComponent
Set vbComp = ThisWorkbook.VBProject.VBComponents.Add(vbext_ct_MSForm)
vbComp.Name = newFormName
' 2) 生成したフォームにキャンバス上のコントロールを複製
Dim ctrl As MSForms.Control
Dim dest As MSForms.UserForm
Set dest = vbComp.Designer
For Each ctrl In designer.fraCanvas.Controls
Dim newCtl As MSForms.Control
Select Case TypeName(ctrl)
Case "Label"
Set newCtl = dest.Controls.Add("Forms.Label.1", ctrl.Name, True)
newCtl.Caption = ctrl.Caption
Case "TextBox"
Set newCtl = dest.Controls.Add("Forms.TextBox.1", ctrl.Name, True)
Case "CommandButton"
Set newCtl = dest.Controls.Add("Forms.CommandButton.1", ctrl.Name, True)
Case Else
' 必要に応じて追加
End Select
If Not newCtl Is Nothing Then
newCtl.Left = ctrl.Left
newCtl.Top = ctrl.Top
newCtl.Width = ctrl.Width
newCtl.Height = ctrl.Height
End If
Next
' 3) ベーシックなコード（Initialize とイベントスタブ）をモジュールに追加
Dim codeMod As VBIDE.CodeModule
Set codeMod = vbComp.CodeModule
Dim startLine As Long
startLine = codeMod.CountOfLines + 1
codeMod.InsertLines startLine, "Private Sub UserForm_Initialize()" & vbCrLf & _
" ' 自動生成された初期化コード" & vbCrLf & _
"End Sub"
' 4) 各ボタンのクリックイベントスタブを作る（例）
' ここでは Label にはイベント不要。CommandButton があればスタブを作る
Dim i As Long
For Each ctrl In designer.fraCanvas.Controls
If TypeName(ctrl) = "CommandButton" Then
startLine = codeMod.CountOfLines + 1
codeMod.InsertLines startLine, "Private Sub " & ctrl.Name & "_Click()" & vbCrLf & _
" ' TODO: 実装" & vbCrLf & _
"End Sub"
End If
Next
End Sub
注意：上記コードは
Microsoft Visual Basic for Applications Extensibility参照を必要とします（VBE オブジェクト操作）。
拡張：ドラッグ＆ドロップ／移動・リサイズの実装方針
UserForm 上での本格的なドラッグ＆ドロップを実装するには、キャンバスを Frame にして、その中でコントロールの MouseDown/MouseMove/MouseUp をハンドルします。各コントロールに共通の MouseHandler を割り当てるには WithEvents を用いたクラスラッパ（例：clsDraggable）を使います。
簡単な clsDraggable のイメージ：
' Class: clsDraggable
Public WithEvents ctl As MSForms.Control
Private dragging As Boolean
Private startX As Single, startY As Single, origLeft As Single, origTop As Single
Private Sub ctl_MouseDown(ByVal Button As Integer, ByVal Shift As Integer, ByVal X As Single, ByVal Y As Single)
dragging = True
startX = X: startY = Y
origLeft = ctl.Left: origTop = ctl.Top
End Sub
Private Sub ctl_MouseMove(ByVal Button As Integer, ByVal Shift As Integer, ByVal X As Single, ByVal Y As Single)
If dragging Then
ctl.Left = origLeft + (X - startX)
ctl.Top = origTop + (Y - startY)
End If
End Sub
Private Sub ctl_MouseUp(ByVal Button As Integer, ByVal Shift As Integer, ByVal X As Single, ByVal Y As Single)
dragging = False
End Sub
frmDesigner 側でキャンバス内の各コントロールに clsDraggable インスタンスを関連付けることでドラッグが動きます。
テーマ・コンポーネント化（クラスベース）
clsComponent を用意して、プロパティ（Caption, Font, BackColor, Padding, Behavior）を保持。テンプレ化してライブラリへ保存／読み込みできるようにします。保存形式は JSON 風の text にするか、Hidden シートに保存しておくと配布・移植に便利です。
' Class: clsComponent
Public Name As String
Public TypeName As String
Public Props As Scripting.Dictionary ' Requires Microsoft Scripting Runtime
Public Sub Initialize()
Set Props = New Scripting.Dictionary
End Sub
コード自動注入（高度）
- イベントコードを自動で記述する際は、テンプレートエンジン（文字列組み立て）を使い、重複チェックと既存コード保護を行う。
- 生成前に
VBComponent.CodeModuleの既存コードをバックアップ（ファイル保存）する仕組みを必ず入れる。 - 生成後は Lint チェック（簡易）と Unit Test（フォームロード・簡易イベント呼び出し）を実行する。
リボン連携（配布容易化）
- Office Ribbon XML を利用してアドイン的にリボンボタンを追加。VBA からは
CustomUIを含む xlsm を作るか、COM アドインでラッパーを作る（上級）。 - 簡易実装：ユーザーに「ファイル」→「オプション」→「クイックアクセスツールバー」へ
マクロを追加してもらう手順書を同梱すると配布が楽。
配布・導入手順（運用上のチェックリスト）
- Excel ファイルを
.xlsmで配布。配布物に「導入手順 (PDF)」を付属。 - 「Trust access to the VBA project object model」の許可方法を明記。
- 署名（デジタル証明書）でマクロがブロックされないようにする（企業環境ならIT部門と調整）。
- バージョン管理：
_metaシートにバージョン番号・変更履歴を記載。 - テストケース（手順書）を同梱。
品質保証／テスト戦略
- ユニット：モジュール単位で動作確認（コード生成、保存/読み込み）。
- 結合：生成フォームを実際にロードしてイベント発火まで確認。
- 回帰：既存テンプレートを上書き生成しても動作するか自動チェック。
- UI テスト：主要操作（ドラッグ、リサイズ、プロパティ編集、Generate）を手順化して実行。
セキュリティ・注意点
- ユーザー環境で
Trust access to the VBA project object modelを有効にする必要があるため、権限問題・情報漏洩リスクを文書で説明すること。 - 自動生成コードは必ずバックアップ／差分を取る。上書きで業務ロジックを壊すと大事故。
- パスワードや機密情報をフォームにハードコーディングしない（Secure Vault の利用等を検討）。
追加で用意できる商用機能（提案）
- ビジュアルテンプレマーケット：組織内で使うテンプレを GUI で追加・管理。
- 翻訳/ローカライズ支援（多言語プロパティ）。
- 分散チーム向けのテンプレ同期（SharePoint / OneDrive 経由）。
- GUI テスト自動化ツールとの連携（VBA 単体での自動テストを補助）。
- エクスポート機能：生成フォームを
xlam／dotx相当のテンプレ形式で配布。
サンプル導入手順（今すぐ動かすミニガイド）
- 新規 Excel ブックを作成し、開発タブを有効にする。
- VBA エディタで標準モジュール
modBuilder、UserFormfrmDesigner、frmPalette、frmPropertyを作る。上の「実装テンプレ」を各所へコピー。 - 参照設定で
Microsoft Visual Basic for Applications ExtensibilityとMicrosoft Scripting Runtimeを有効にする。 - Excel のオプションで「Trust access to the VBA project object model」を有効にする。
frmDesignerを実行して、cmdNewControlやcmdGenerateを試す。- 生成されたフォーム（例：GeneratedForm1）がプロジェクトに追加されているか確認する。
