実行者名取得
「誰がマクロを実行したか」を記録できると、監査・トレーサビリティ・権限確認がグッと楽になります。初心者でも迷わないように、取得方法の選び方とコードテンプレを丁寧に解説します。要点は「Windowsのログオン名」「Excelの表示名」「ドメイン＋PC情報」の使い分けです。
実行者名の種類と使い分け（重要ポイントの深掘り）
- Windowsログオン名（推奨）:
- PCにログインしているアカウント名（監査用途に適合）。
- 例: “tanaka.taro” や “taro”。
- Excelユーザー名:
- Excelの「ユーザー名（オプションで設定）」で、表示用。自由に変更できるため監査には不向き。
- ドメイン＋ユーザー名:
- 企業環境で「DOMAIN\username」を記録すると一意性が増す。
- 補足情報:
- コンピューター名、IP、メール（Outlookから）などを併記すると追跡がさらに明確。
重要な見極めは「変えられる名前か、変えられない名前か」。監査には「変えにくい情報（Windowsログオン名＋ドメイン＋PC名）」を使い、画面表示にはExcelユーザー名がカジュアルで便利です。
テンプレ1：最小・高速（環境変数でWindowsユーザー名）
Sub GetExecutor_Environ()
Dim userName As String
userName = Environ$("USERNAME") ' Windowsログオン名
MsgBox "実行者（Windows）: " & userName
End Sub
- メリット:
- 軽い・速い・依存なし。 ほぼ全環境で使える標準手段。
- 注意点（深掘り）:
- 環境変数は変更可能性がゼロではないため、厳密監査では「ドメイン併記」がおすすめ。
テンプレ2：WScript.Network（ドメイン/コンピューター名も取得）
Sub GetExecutor_WScriptNetwork()
Dim net As Object
Set net = CreateObject("WScript.Network")
Dim userName As String, domain As String, computer As String
userName = net.UserName
domain = net.UserDomain
computer = net.ComputerName
MsgBox "実行者: " & domain & "\" & userName & vbCrLf & _
"コンピューター: " & computer
End Sub
- メリット:
- DOMAIN\username と PC名 を同時に取得。監査・ログに最適。
- 注意点（深掘り）:
- 企業環境でドメインに参加していないPCは、ローカル名（WORKGROUPなど）になることがある。
テンプレ3：Excelのユーザー名（表示用）
Sub GetExecutor_ExcelUserName()
Dim displayName As String
displayName = Application.UserName ' Excelの表示名（オプション）
MsgBox "Excelユーザー名: " & displayName
End Sub
- メリット:
- 見やすい表示名。 画面表示や注釈に便利。
- 注意点（深掘り）:
- ユーザーが自由に編集できるため、監査には不向き。
テンプレ4：ブックの「作成者」プロパティ（ドキュメント証跡）
Sub GetWorkbookAuthor()
Dim author As String
author = ActiveWorkbook.BuiltinDocumentProperties("Author")
MsgBox "ブック作成者: " & author
End Sub
- 用途:
- 「このブックを最初に作ったユーザー」を確認。
- 注意点（深掘り）:
- 作成後に変更される場合あり。実行者名とは別物。
テンプレ5：一括ログ出力（推奨セットで記録）
Sub LogExecutorInfo()
Dim net As Object: Set net = CreateObject("WScript.Network")
Dim userWin As String: userWin = Environ$("USERNAME")
Dim userDom As String: userDom = net.UserDomain & "\" & net.UserName
Dim pcName As String: pcName = net.ComputerName
Dim excelName As String: excelName = Application.UserName
' シートへ一行記録（Logシート想定）
Dim ws As Worksheet: Set ws = Worksheets("Log")
Dim r As Long: r = ws.Cells(ws.Rows.Count, "A").End(xlUp).Row + 1
ws.Cells(r, 1).Value = Format(Now, "yyyy-mm-dd HH:NN:SS")
ws.Cells(r, 2).Value = userDom ' DOMAIN\username（監査用の主列）
ws.Cells(r, 3).Value = userWin ' Windowsユーザー名
ws.Cells(r, 4).Value = pcName ' コンピューター名
ws.Cells(r, 5).Value = excelName ' Excel表示名（参考）
MsgBox "実行者ログを記録しました。Row=" & r
End Sub
- 重要ポイント（深掘り）:
- 監査の主キーは「DOMAIN\username」。Excel名は補助的に扱う。
- 時刻とPC名を併記すると、誰のどの端末で実行されたかが一目で分かる。
テンプレ6：関数化してどこでも使えるように（再利用）
Public Function GetExecutorDomainUser() As String
Dim net As Object: Set net = CreateObject("WScript.Network")
GetExecutorDomainUser = net.UserDomain & "\" & net.UserName
End Function
Public Function GetExecutorWinUser() As String
GetExecutorWinUser = Environ$("USERNAME")
End Function
Public Function GetExecutorExcelName() As String
GetExecutorExcelName = Application.UserName
End Function
Public Function GetComputerName() As String
Dim net As Object: Set net = CreateObject("WScript.Network")
GetComputerName = net.ComputerName
End Function
- 使い方例:
LogWrite LOG_INFO, "Run by " & GetExecutorDomainUser()のようにログ基盤へ統合。
例題で練習（貼って試せる）
- 例1：メッセージ表示で確認
- Environ と WScript.Network の違いを実際の値で確認する。
- 例2：Logシートに記録
- 実行した日時・DOMAIN\username・PC名を追記し、履歴を残す。
- 例3：処理ログ連携
- 共通ログ基盤に「開始・終了」と「実行者」を一行で出力して監査可能にする。
実務の落とし穴と対策（重要ポイントの深掘り）
- 落とし穴1：Excelユーザー名のみで監査
- 対策: 監査には必ず Windowsアカウント（できれば DOMAIN\username）を使う。
- 落とし穴2：ローカルPCでドメインがない
- 対策: Environ(“USERNAME”)＋ComputerName を併記し、端末識別で補完。
- 落とし穴3：国際化・日本語名の文字化け
- 対策: ログ保存をUTF-8（ADODB.Stream）やシート保存にして文字化けを避ける。
- 落とし穴4：権限で取得不可
- 対策: WScript.Network は通常ユーザー権限で動く。制限環境では Environ をフォールバックに設定。
- 落とし穴5：情報の使い過ぎ（プライバシー）
- 対策: 必要最小限に絞る。監査要件に合わせてフィールドを選定。
最小スターター
- まずは Environ(“USERNAME”) を使って簡単に実行者名を取得。
- 必要に応じて WScript.Network で DOMAIN\username と PC名を追加。
- ログに残すテンプレ（テンプレ5）を貼って「いつ・誰が・どの端末で」実行したかを一行で記録。